Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
「そろそろ杏奈のご両親の作った唐揚げが恋しくなってきたな」
「じゃあ今度実家に行ってもらって……」

 そう言いかけた杏奈の唇を高臣が塞ぐ。

「一緒に杏奈のご実家に行こう」

 杏奈はハッとした。彼が言おうとしていることが何か気付いて、急に緊張し始める。杏奈の実家に行くということは、逆もまたありきなのだ。

「どうしよう……私が由利高臣の奥さんなんて……大丈夫?」
「当たり前じゃないか。君はあの学園の特進クラスに通って、国立大学にも進学したじゃないか。もっと自信を持っていいんだよ」

 高臣の言葉が心に染み渡り、安心感に繋がっていく。

「それに俺が心から愛した人に何か言う奴がいたら、容赦しないさ」
「また物騒なことを言ってる……」

 苦笑いをしながら、でもこんな部分も含めて愛おしく思う。

「私……そういうところも全部まとめて、あなたを愛してるんだわ」

 あぁ、やっと言えた。初めて体を重ねたあの日から、彼はずっと『愛してる』を繰り返し伝えてくれた。彼が与えてくれる愛情が、杏奈に少しずつ自信を与えてくれたのだ。だから同じように愛情を返したいと思えた。

 高臣は目を見開いて杏奈を見つめてから、彼女をギュッと抱きしめた。

「嬉しいよ……愛してる……これからも君を愛し続けると誓うよ」

 杏奈は高臣の胸に顔を埋めた。

 ふと耳に、あの頃の学園の授業の始まりと終わりを知らせるベルの音が響き渡る。

 期待に胸溢れた水曜日だけは音が違って聞こえたのだ。

 そして今耳に響くのは彼の優しい鼓動。不安な心を安心という温もりで包み込んでくれる。

「高臣くん、愛してる……」

 もう本物の彼を知らなかった頃には戻りたくないと思う。これからは希望と甘さに溢れた、二人だけの新しい音が響いていくことを心から願うのだった。

<完>
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