心臓外科医になって帰ってきた幼馴染の甘くて熱い包囲網
駿介が口元を引き締めて言った。

紗知子は思いもよらぬ駿介の返事に、つい道の真ん中で立ち止まってしまった。

「駿ちゃん、それってどういう…」

駿介の真意を尋ねかけたその時、背後からエンジン音がものすごい速さで近づいてきた。

走り抜けていく荒い運転のタクシーから守るように、駿介は紗知子の肩を抱いた。


「ほんと、ほっとけないよ」

すっ、と頭を、胸元に抱き寄せられる。


トクン、と心臓がひと跳ねして、紗知子は胸元を手で押さえた。

体温を感じる距離に相手を引き入れる甘い仕草は、駿介の癖らしかった。


家の前に着くと、駿介は紗知子の頭にポンと手を置き、念を押す。

「絶対に無理なことはしないように」

「はい。わかりました。送ってくれてありがとう」

感謝の意を示しつつも、これからは一人でしっかり何でもできるようにならなくちゃ、と紗知子は思う。

いつまでもこんな風に恵まれた環境にいられる訳ではないのだから。


駿介はもうすぐ、アメリカに行ってしまうのだ。
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