心臓外科医になって帰ってきた幼馴染の甘くて熱い包囲網
鉢を持って彼は屋外レジに足を向けた。

有無を言わせぬ素早い動きを追って、紗知子は足早に歩いた。



家に向かう途中、紗知子は男性に尋ねた。

「今日は平日ですけど、お仕事は何されてるんですか」

「絵画教室です」

彼は立ち止まり、荷物でふさがった手の代わりに、目線を動かして何かを指し示した。

視線の先、三階建ての建物の一階に、絵画教室の看板があった。

ー絵画教室・清宮遼

「絵の先生なんですか」

「そう。僕、遼って言います。美大を出て、デザイン会社に入ったけど激務で体壊しちゃって、今は細々と子供たちに絵を教えてます」

「私も、体壊して会社辞めたんです。同じですね」

「ああ、同じなんだ。奇遇だね」

遼は微笑んで紗知子を見下ろした。吸い込まれるような人懐こい笑顔だ。

「私は紗知子って言います。今は、動画配信でお小遣い稼ぎだけ」

「どんな動画?」
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