心臓外科医になって帰ってきた幼馴染の甘くて熱い包囲網
「ガーデニングとお菓子作りです。カタカナで、サチコっていう名前でやってます。良かったら観てください」

「えっ…その動画、僕観てるよ。ハーブティーとお菓子も紹介してない?」

遼は体ごと紗知子のほうをむいた。かすかに上気した頬が心なしか赤く染まった。

「はい。知ってるんですか。うれしいなぁ。視聴者さんに会えるなんて」

紗知子は浮足立った。



家に着き、門扉を開ける。

父の親族が代々暮してきた家は、もうあちこちガタが来ている。六十年前に意匠をこらして建てられた瀟洒な6LDKは、紗知子一人には大きすぎる。それでも小さなころから育ったこの住まいは、紗知子にとっては大切な城だ。

「今日はありがとうございました」

遼から鉢を受け取ろうとすると、彼はひょいと体を翻すようにして門扉の内側に滑り込んだ。

「庭まで運ぶよ」

「あ、ありがとうございます」
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