心臓外科医になって帰ってきた幼馴染の甘くて熱い包囲網
庭の隅に鉢を置くと、遼は掃き出しの窓の向こうのリビングを見やった。

「お家に紗知子ちゃん以外に、誰か住んでるの?電球、僕が替えようか?きみちっこいし」

「ちっこいとか言わないでくださいよ」

と紗知子は笑い、ちょっと真面目な顔をして続けた。

「一人暮らしだから、このくらい自分で出来ないと、これから先の人生困るので」

「人生なんて…大げさだな。それに、その若さでもうおひとり様を決め込んでるの?」

「そういうわけではなくて、ただ、頼りにしている幼馴染が、もうすぐいなくなっちゃうから」

「そうなんだ。それは寂しいね」

「うん。でも仕方ないの」

紗知子は庭の木に実った柚をもぎ取り、二つ、遼に渡した。

「そういうわけだから、大丈夫です。これ、お礼」

「ありがと。また会おう」

「うん。機会があったら私、絵を見に行きます」

「絵?ああ、もちろん。じゃ、こんど僕の絵、プレゼントするよ」

「いいんですか?」

「いいよ」
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