心臓外科医になって帰ってきた幼馴染の甘くて熱い包囲網
布団から手を伸ばし、スマホを耳に当てる。

「おはよ、紗知子、体調はどう?」

「おはよ。大丈夫、いつも通り。…いま病院なの?」

「さっきまで昨夜の急患の対応してて、今家に帰ってきた。クリニックは午後からの出勤だから、それまで仮眠取るよ」

「お疲れ様。ゆっくり休んでね」

「紗知子」

「なに?」

「おやすみ」

「私は今から起きなくちゃなんだけど」

「いいから、おやすみって俺に言って。そしたらゆっくり眠れそう」

「へんな駿ちゃん…。おやすみ」

「おやすみ、紗知子」

電話口の駿介の声は、心なしか甘かった。温かく響いたその声は、耳を伝って全身に温かいものを染み渡らせてくれるようだった。

その余韻を味わいながら、紗知子はこれから眠りにつく駿介を思い、再びまどろんだ。


───駿介は私にとって唯一安心をくれる、お兄さん代わりの優しい人。そして、本当は、どこにもいかないでほしい人…

夢うつつの中、紗知子はぼんやりと思った。
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