心臓外科医になって帰ってきた幼馴染の甘くて熱い包囲網
真相
───遼が紗知子の家に届けた絵画は、彼の作品ではない。先日高架下のギャラリーで展示されていた、別な人物の作品だ
これは事情聴取の中で、駿介が警察に話したことだった。
本当の絵の作者である画家は、四十代後半の男性だという。駿介は以前からその絵画を見ていて、この画家と顔見知りだったのだ。
「この絵は盗品だったのね。しかもあの人は、その画家の名前まで拝借して偽名を名乗った。本当は石田良哉という名前だった…」
紗知子は壁に立て掛けたクローバーの絵を呆然と眺め、青白い顔で呟いた。
遼を名乗った男、石田良哉は、紗知子との会話中にたまたま絵画教室の看板を見て、その名前と肩書を語って正体を隠したのだ。
思い返してみれば、紗知子が職業を聞いたとき、ちょうど彼の絵画教室の目の前にいたというのは不自然な話だった。
駿介は紗知子の言葉にうなずくと、疲労の翳りが浮かび始めた表情で口を開いた。