心臓外科医になって帰ってきた幼馴染の甘くて熱い包囲網
今は父が残してくれた資産を元手に、趣味と実益を兼ねた動画配信でわずかな収入を得つつ、細々と暮らしている。


地元に単身で戻ってきた駿介と再会したのは、一年前の夏。

その日は猛暑だった。けたたましいセミの鳴き声を浴びながら駅まで歩いて電車に乗り、病院にたどり着いたころにはへとへとになっていた。

疲れ果てた紗知子は病院のロビーに入るなり椅子にへたり込んだ。足がひどくむくんで、体が重かった。

心臓の不規則な鼓動が、紗知子の不安を煽った。

片手で汗を拭きながら、もう片方の手で胸元を押さえていると、甘い声が頭上から降ってきた。

「紗知子、大丈夫か」

驚いて見上げた。不安げに眉を寄せて見下ろしているのは間違いない、子供の頃よく遊んでくれていた、朝比奈駿介だった。

東京へと家族で引っ越して行ったのは彼が十三歳の時。そのときからは見違えるほど洗練された大人になって、細身のスーツをスマートに着こなしている。
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