心臓外科医になって帰ってきた幼馴染の甘くて熱い包囲網
駿介が申し訳なさそうに言うと、清宮は、いや、いいんだいいんだ、と首を振った。

「このギャラリーだけは地元の自治体に依頼されて、地域貢献のためにやっているんだ。…とは言っても、売ってくれって言ったのがもし紗知子ちゃんだったなら、もちろんタダであげてたよ。でも駿介に懇願されても、なんで若いイケメンなんかに僕の絵を譲らなきゃならんのだと思ったね」

「買えないって聞いて、俺、『売ってもらえないならずっとここに飾っておいてくれ』って頼んだんだ」

駿介がほころんだ表情で言った。清宮が話を引き継いだ。

「図々しいよね。でも優しい僕は快諾した。なにしろ、この絵を見ると、子供の頃に好きな女の子とした約束を思い出して、原点に帰って、頑張ろうって思えるんだ、って駿介が言うからさ」

清宮は言うと、紗知子にウインクした。

「子どもの頃の約束…」

紗知子は駿介の横顔を改めて見つめた。駿介も、覚えているのだ。小さなころ、花の冠を乗せてくれたあの日のことを。

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