ただの道具屋の娘ですが、世界を救った勇者様と同居生活を始めます。~予知夢のお告げにより、勇者様から溺愛されています~

勇者が村にやってきた

 辺りはまだ薄暗く、朝と呼ぶには早い時間。
 ビオレッタは波の音で目が覚めた。

 眠い目をこすりながら二階から降り、カウンターにかけておいた白いエプロンを身に付ける。そしていつものように店内を軽く掃除してから、やっと自身の朝食作りにとりかかった。
 裏の畑は芋が食べごろ。今朝も鶏が元気に鳴いていたから、おいしい卵を産んでくれていることだろう。裏口から外へ出ようとすると……

 トントントンと軽快に、階段を降りてくる音がした。

「ビオレッタさんおはようございます! 俺も起こしてくれればよかったのに。手伝いますよ」

 まばゆい金髪に深い蒼の瞳、村では見たこともないような美しい青年――
 それは先日、魔王討伐を果たした勇者ラウレルその人だった。

「いえ、朝も早いですしラウレル様はまだ寝ていても……って、もういないですね」

 彼は意気揚々と裏庭に出て、すでに芋を収穫したようだった。今は鶏と格闘中だ。
 けたたましく威嚇する鶏に、じりじりと近づくラウレル。
 ビオレッタは助けに入ることを諦めて、その格闘をぼんやりと眺めた。

(……にぎやかだわ……ひと月前までが嘘みたいに)


 彼が村に来たことで、ビオレッタの平凡な日々は一変した。
 それはひと月ほど前にさかのぼる。






 
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