ただの道具屋の娘ですが、世界を救った勇者様と同居生活を始めます。~予知夢のお告げにより、勇者様から溺愛されています~
「それ、綺麗ですよね」

 隣には、いつの間にか海から上がったラウレルがしゃがんでいた。
 まだ水が滴る彼は、足元に落ちていたリヴェーラの石をそっと拾い上げる。

「あ……ラウレル様。気が付かなくてすみません」
「考え事ですか? ボーっとしていましたけど」

 ラウレルは気遣わしげにこちらを覗き込んだ。
 心配させてしまうほど、ボーっとしてしまっていたらしい。

 プラドのバザールとグリシナの道具屋を比べてしまっていたなんて恥ずかしくて、ラウレルには知られたくないことだった。
 ビオレッタはなるべく自然に笑顔を作り、気取られないように取り繕う。

「いえ……海に来たのは久しぶりだなって思いまして」
「そうなんですか? こんなに近いのに」
「ラウレル様も以前、この砂浜にいらっしゃったのですよね?」
 
 勇者一行がこの砂浜で予知夢を見たことは広く語り継がれている話だ。
 それが魔王を討伐を成し遂げるというもので――

「はい。その時、ビオレッタさんと結婚している予知夢を見たんです」
「あ……そうでしたね」

 そうだった。ラウレルはそんな予知夢も見ていたのだった。そしてビオレッタへ唐突にプロポーズした。予知夢が見せた未来を信じて。

「もしかしたら、今は違った未来が見えるかもしれませんよ」
「そんなことありません。絶対に」
「なぜそんな風に言い切れるんですか」
「俺には分かります。ほら」

 自信たっぷりのラウレルは、ビオレッタへ見せつけるようにまぶたを閉じた。
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