ただの道具屋の娘ですが、世界を救った勇者様と同居生活を始めます。~予知夢のお告げにより、勇者様から溺愛されています~
 彼はまた予知夢を見ようとしている。
 迷いなく目をつぶる彼の自信は一体どこから来ているというのか。もし、違う未来が見えたとしたら……ラウレルはどうするつもりなのだろうか。

(もし、予知夢が違っていたら……)

 ラウレルはグリシナ村を出ていってしまうのだろうか。
 そもそもグリシナ村に留まっていること自体がおかしいのだから、出ていっても当たり前ではあるのだが。

 彼が予知夢を見終わるまで数分間。待ちながら、なぜかこちらがドキドキしてしまう。
 ラウレルがどんな予知夢を見ているのか知りたいような、知りたくないような……


「――終わりましたよ」

 答えを待ち構えるビオレッタの隣で、ラウレルはゆっくりと目を開けた。
 その顔は、良いものを見たという満足感に満ちている。

「俺にはやっぱり、ビオレッタさんと子供たちが見えました」
「えっ……」
「道具屋で家族四人、仲良く暮らしているんです」

 ラウレルの予知夢はなにも変わっていなかった。
 彼の未来には、どうしてもビオレッタがいるらしい。

「ビオレッタさんにもこの未来が見えたらいいのに。そうしたら信じてくれますよね?」
「私、予知夢を見たことがないのですが……」

 ビオレッタには、昔から予知夢が見えた試しが無い。
 砂浜で目をつぶったとしても、波の音が聞こえるだけなのだ。

「試してみましょうよ、ほら、ビオレッタさんも」
「ええ……?」

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