ただの道具屋の娘ですが、世界を救った勇者様と同居生活を始めます。~予知夢のお告げにより、勇者様から溺愛されています~

両親の面影

 明くる日、暇を持て余していた道具屋に、お隣のシリオがやって来た。
 武器屋である彼の手には切り傷が絶えない。今日もまた新たな傷を作ってきたシリオは、「やっちまった」とバツが悪そうに傷口を見せた。

 仕方がない。ビオレッタはシリオの無骨な手に、容赦なく傷薬を塗りこんでいく。

「痛え……もっと優しくできねえ?」
「染みるかもしれないけど、傷口に塗らないと意味無いでしょ? 我慢して」

 シリオは文句を言いながらも、ビオレッタが傷薬を塗り終えると「ありがとよ」と屈託なく笑う。いつもこうして言葉にしてくれる所が憎めない男だ。

 薬を片付けながら、ビオレッタはふと昨日の出来事を思い出し、何気なくシリオにも聞いてみた。

「……ねえシリオ、あなたは予知夢見たことある?」
「あ?」
「目を閉じると、未来が見えるっていうじゃない?」
「ああ、砂浜のやつか? 俺は見たことあるぞ」
「えっ、嘘!」

 なんと、ロマンチックなことには無縁なシリオすら、予知夢を見たことがあるらしい。
 シリオは経験無いだろう……と勝手に仲間意識を抱いていただけに、なんとなく敗北感を抱いてしまう。

「嘘じゃねえよ。見たのはまだガキの頃だが、予知夢でも俺は武器屋してたな」
「シリオらしいわね。予知夢はちゃんと当たってるし」
「お前は? 予知夢でも道具屋やってたか?」
「それが……」

 ビオレッタは、つい口篭る。
 昨日ラウレルと砂浜で試してみた時も、ビオレッタには予知夢が見えなかった。
 ラウレルが見たという結婚生活……は置いておいて、道具屋として生きている未来さえも見えてこなかったのだ。
 
「私……この先、道具屋できているのかしら」
「あ? 何言ってんだ?」
「私には予知夢が見えなくて」

 シリオの前で不安を口にした時、外からラウレルが帰ってきた。
 カウンター越しに向かい合うビオレッタ達を見て、ラウレルの動きが僅かに止まる。
 
< 34 / 96 >

この作品をシェア

pagetop