ただの道具屋の娘ですが、世界を救った勇者様と同居生活を始めます。~予知夢のお告げにより、勇者様から溺愛されています~
 現在、ラウレルとの暮らしに不満は無い。
 むしろ彼には助けられている部分も多い。
 けれど、やはり結婚前の男女がひとつ屋根の下で暮らし続けるというのは、あまり宜しくないのでは……とも思う。こう思うビオレッタは冷たいだろうか。

「あの……そのことなのですが――」
「ビオレッタさんのご両親って――」

 ラウレルにそれとなくビオレッタの考えを伝えようとしたけれど、彼と言葉が重なってしまい言い出すタイミングを失った。
 それに気付かないラウレルは、道具屋に置いてある計算道具を手に取り、しげしげと見つめている。

「もしかしてご両親は元々、行商人だったのではないですか」
「えっ、なぜ分かるのですか?」

 言い当てられたことに、ビオレッタは驚いた。
 ラウレルの言うとおり、両親はもともと世界各地を点々としていた行商人だ。
 父と母は商人同士、旅の途中で出会い、そして結婚したと聞いている。

「父と母は、偶然立ち寄ったグリシナの浜辺で予知夢を見たそうなのです。この村で道具屋を営んでいる光景が見えたとかで……それでここに店を構えたらしくて」
「なるほど。だからこのような道具を使っているんですね」

 ラウレルが手にした計算道具。
 それは昔から両親が愛用していたものだった。

 木枠に並行して数本の針金が張ってあり、そこに堅い木の珠が通されている。計算をする時はその珠を動かすだけという、とても便利な道具だ。

「この道具、移動する時でも持ち運びが便利で、行商人達が持っているのをよく見ました。けど、このあたりではあまりポピュラーな道具では無いんですよね」
「そうだったのですか? 当たり前に使っていたので知りませんでした。確かに持ち運ぶには良いですよね」
「この帳簿の付け方も、効率が良くて素晴らしいですよね。紙が少なくて済むから――」

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