ただの道具屋の娘ですが、世界を救った勇者様と同居生活を始めます。~予知夢のお告げにより、勇者様から溺愛されています~
 カメリアは、庭のテラスにお茶を用意してくれた。
 テラスからは、虹のかかる滝がよく見える。

「きれいですね……ずっと虹がかかっていて」
「あの滝は、このカタラータ神殿のシンボルなの。この地方では、虹のかかるものに神が宿ると言われていてね――」

 同世代の友人がいなかったビオレッタにとって、こうして女同士でお茶を飲むことは初めてだった。
 ホッとするお茶の香りが全身に染み渡る。頭上からは鳥がさえずり、木の葉が囁く。辺りに流れる清廉な空気に、やっとビオレッタも落ち着いてきた。

「私……カメリア様に嫉妬してしまって、やっと気付いたんです。ラウレル様への気持ちに」

 ビオレッタは胸の内を正直に話した。
 このような話を他人に打ち明けるのは初めてだった。あけすけなカメリアだったから話せたのかもしれない。

「でも、ラウレル様は勇者様です。オルテンシアのお姫様とのご結婚があります。そのような方を、グリシナ村のような狭い世界に縛るわけにはいかないと、分かってはいるのです」

 短い間ではあるが、ラウレルと一緒に過ごして思い知った。彼と自分の違いを。

 ラウレルはただ魔王を倒しただけではない。国から国を渡り歩いて、広く影響を与えてきた唯一の人だ。勇者として、王族から……世界中の人から必要とされている。

 一方、ビオレッタはただ狭い村で毎日同じことを繰り返してきただけの人間だった。彼は、自分のような者が独り占めしていい存在ではないのだ。


「いずれ、この生活には終わりが来ると思っています。だから私の気持ちは、隠しておくべきだと……」
「とは言ってもね……あいつは諦めないよ。予知夢通りにビオレッタちゃんと結婚したくてしょうがなくて、魔王倒したくらいだから」
「ええっ!?まさかそんな」

 ビオレッタなんて、ただの道具屋だ。たった一度、予知夢に登場しただけで、なぜそれほどまで結婚を望まれるのかが分からない。

「ラウレル様は何故そんなに予知夢にこだわるのでしょうか……」
「だって、好きになった子と結婚している未来を見ちゃったんだもの。予知夢を信じたくもなるわよ」

(……ん?)

 ビオレッタの認識と、カメリアの言っていることが噛み合わない。

「順番が逆では? 予知夢に私が現れたから、ラウレル様は私を選んだのでは?」
「違うわよお。あいつ、好きな子が予知夢に現れたもんだから、大喜びで予知夢を信じたのよ」

(どういうこと……?)

 
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