ただの道具屋の娘ですが、世界を救った勇者様と同居生活を始めます。~予知夢のお告げにより、勇者様から溺愛されています~
 オルテンシアの街で孤児として生きてきたラウレルは、昔から何でも良く出来た男だった。

 生まれながらにして魔力は人より強かったし、身体能力も高く要領が良かった。おまけに幸か不幸か見た目がすこぶる良いらしく、それだけでも人々の目を引いた。

『人よりも少し優れている』ラウレルを、「すごい奴が現れた」とオルテンシアの街の者達は大袈裟にもてはやした。

「百年に一人の逸材だ」
「こんな男は前代未聞だ」

 次第に尾ひれをつけて広がる噂は城にまで届き、ラウレルはある日突然オルテンシア城から呼び出しを受けた。

 そしてオルテンシア王より告げられたのだ。

「勇者ラウレルよ、魔王を倒すのだ」と。
 
「え……勇者? 俺が?」
「そうだ、そなたは紛れも無く勇者である。魔王を倒す使命を持って生まれてきたのだ」
「俺は普通の人間です。勇者だなんて――」
「さあ行くのだ、勇者ラウレル。この世に平和をもたらすのだ」

 戸惑うラウレルに、なぜ『勇者』として選ばれたのか、誰も教えてはくれなかった。
 王が『勇者』と言ってしまえば、その者は『勇者』となるのだそうだ。根拠は未だ闇のまま。

 日に日に強くなる魔王の力。増えていくモンスター。
 オルテンシア王は国民の不安を取り除くために、適当な者に白羽の矢を立てることにしたのだ。そうとしか思えない。

 こうしてラウレルは訳も分からぬままに『勇者』に仕立て上げられた。
 その日から、ラウレルを取り巻く世界はガラリと変わることになる。

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