ただの道具屋の娘ですが、世界を救った勇者様と同居生活を始めます。~予知夢のお告げにより、勇者様から溺愛されています~
『勇者』として、ただがむしゃらにモンスターを倒す日々が始まった。

 奥深い洞窟を探索し、前人未踏の山を登り、出口の無い森を彷徨い歩く。そうして傷だらけになり、血を吐きながらも、課せられた己の使命を全うしようとした。

 しかし、必死にもがくラウレルの姿を見た人々は、密かに呟くのだ。

「なんだ、勇者とはこんなものか」と。
 これまでラウレルのことを『すごい奴』ともてはやしてきた奴らが。

 みるみるうちに人間不信になった。
 なぜこんなことをしているのか、勇者でいる意味が分からなくなった。ラウレルは少し能力が高いだけの、ただの人間だ。普通に生きてきただけだったのに。



 そんな中、身も心もズタズタになっていた状況で立ち寄ったのが、海辺の集落・グリシナ村だった。
 一刻も早く身体を休めなければならない……僅かに残った力で命からがら宿屋に行くと、なんと宿の女将は不在で。

 怪我を負う仲間と途方にくれていた時、偶然エプロン姿の娘が通りがかった。
 淡い色彩の、可憐な人――その人こそがビオレッタだった。

 傷だらけのラウレル達を見るなり血相を変えた娘は、女将に了承を取らぬまま、ラウレル達を宿屋のベッドに寝かせてしまった。
「私が責任を取りますから」となりふり構わず部屋を整え、道具屋から傷薬を持ってくると、一人一人手当てを始めた。優しく、丁寧に。彼女の性格を表すように。

 そしてひと通りの手当てを終え、最後に言ったのだ。
「勇者様といえど人間なんですから、無茶をしてはいけませんよ」と心配そうな顔をして。
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