ただの道具屋の娘ですが、世界を救った勇者様と同居生活を始めます。~予知夢のお告げにより、勇者様から溺愛されています~
「昨日、ビオレッタの寝顔見ながら考えてたんですけど」
「えっ! 寝顔……見ていたのですか!」
「見ないわけないでしょう!? なんなら毎日でも見たいくらいです、世界一可愛かった……まあ、そのことは置いておいて」

 彼は出来たてのマッシュポテトをすくいながら、何でもないことのように切り出した。

「俺、『勇者』を返上しようと思っていて」
「返上!?」

 突然のびっくり発言に、ビオレッタは思わずむせてしまう。慌ててミルクで流し込むと、改めてラウレルと向き合った。

「そ、そんなこと出来るんですか?」
「俺が『勇者』なせいでビオレッタが悩んでるなら、『勇者』の肩書きは邪魔なんですよね」
「はあ……」

 呆気にとられてしまった。なんというか、肩書きの扱いがとんでもなく軽い。
そんな雑に扱われていいのだろうか。

「魔王も倒したことだし、世の中的にも『勇者』必要ないですよね?」
「そう言われればそうかもしれないですけど……ラウレル様はそれでいいのですか」

 勇者なんて、これ以上無い名誉ある称号だ。しかも魔王を倒したという実績付き。それを簡単に「要らない」と言えてしまうなんて……

「俺は『勇者』の称号よりも、ビオレッタが欲しいので」

 彼が『勇者』を返上したいと言い出したのは、他でもないビオレッタのためだ。

 ラウレルの気持ちが真っ直ぐに伝わってくるから。
 ビオレッタはそれ以上、何も言えなくなってしまったのだった。
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