ただの道具屋の娘ですが、世界を救った勇者様と同居生活を始めます。~予知夢のお告げにより、勇者様から溺愛されています~
『勇者』と名乗ることを辞めたいと申し出たラウレルを、王は「辞められては困る」と有無を言わさず退けたという。

『なぜ? 魔王がいなくなった今、勇者の役目は終わったはずでしょう』
『オルテンシアの勇者ラウレルよ。それはそなたの一存で決められぬことだ。魔王を倒したとて、まだ役目は終わっていない』

 王は食い下がるラウレルへそのように言い捨て、さっさと姿を消したという。

「ある意味、魔王よりあの王のほうが憎い」
「ラウレル様、そんなこと仰らず……でもオルテンシア王の言う『役目』とは、まだ何かあるというのでしょうか……」
「あいつは、『勇者』の力で他国を屈服させたいのですよ」
 
 ラウレルが言うにはこうだ。

 王は、外交面において『この世界を救ったのはオルテンシア王国の勇者だ』という強力なカードを持っておきたい。これからもその立場を利用して、他国へ恩を売り続けたいのだ。
 出来ることなら勇者と姫を結婚させ、王族の威を確固たるものにして。

「もう俺は王に期待しない」
「ラウレル様……」
「俺は絶っ対、オルテンシアとの縁を切ってやります」

 ラウレルはとうとう意固地になってしまった。よっぽど、オルテンシア王とは相容れないのだろう。
 確かに彼から聞いた話だけでは、あまりにもラウレル側の意思を無視している気がする。

「でもラウレル様、王を相手とするのですから……くれぐれも無茶だけはしないでくださいね」
「……ねえビオレッタ、抱きしめてもいい?」

 ラウレルはビオレッタの返事を待たず、彼女をぎゅうぎゅうに抱きしめた。

「ありがとう……いつも心配してくれて」

 その体温に安心するような、恥ずかしくて逃げたいようなラウレルの腕の中。
 ビオレッタは本心に抗うのを諦めて、彼の胸に顔を寄せたのだった。
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