ただの道具屋の娘ですが、世界を救った勇者様と同居生活を始めます。~予知夢のお告げにより、勇者様から溺愛されています~
 村長の家の屋根には、ハシゴがかかってあった。

(これは、いるわね……)

「ラウレル様」

 ビオレッタは村長の家の下から声をかけた。
 しかし屋根からは返事がない。

「お願いです、出てきて下さい」

 応答がない。

 ……だが、しばらく待っているとラウレルが申し訳なさそうに顔を出した。

「ビオレッタさんから『お願い』なんて言われたら観念するしかないじゃないですか」

 そう言いながらラウレルは屋根から飛び降りると、ビオレッタのそばへ華麗に着地した。

「ラウレル様。私から逃げていたでしょう」
「だって、ビオレッタさんがわざわざ俺を探すなんて……きっとまた『お引き取りを』とか言いに来たのでしょう?」
「なぜ……それを」

 図星だった。正確には、街へ帰る気はないのかと帰宅を促したかっただけなのだが。

「ラウレル様はオルテンシアの街が御出身だと伺っています。一度お戻りになられては? 皆さん心配されておりますでしょう」

 やんわりと伝えてみると、彼は首を横に振った。

「戻りません」
「どうしてですか。ご自宅がありますよね?」
「オルテンシアなど、戻った途端に姫と結婚させられるでしょうから」

(姫!?)
 
 オルテンシア王の愛娘、コラール姫のことだろうか。
 世界を救った勇者と、オルテンシアの姫。なんてお似合いなのだろう。

「素晴らしい名誉じゃないですか! 姫とご結婚だなんて」
「俺はビオレッタさんと結婚したいんです、姫とではありません」

 そんな名誉も、ラウレルにとってはちっとも喜ばしいものでは無いようだ。

「姫との結婚が『褒美』などと言うのですよ、あのオルテンシア王は。姫のことも俺のことも馬鹿にしているとしか。ねえ、そう思いませんか」
「あ、はい……」

 
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