ただの道具屋の娘ですが、世界を救った勇者様と同居生活を始めます。~予知夢のお告げにより、勇者様から溺愛されています~
「ビオレッタちゃん! 勇者様!」
村へ着くと、皆が二人を出迎えてくれた。
オリバはビオレッタを見るなり抱きつくと、声を上げておいおい泣いた。
「よかった……本当に無事でよかった……」
兵に押さえ付けられたオリバやシリオ達にも、目立った怪我など無い様子だ。
ビオレッタは心底ホッとした。皆が無事に出迎えてくれたことがこんなにも嬉しい。
「勇者様ね、ビオレッタちゃんがオルテンシアにさらわれたの聞いたとたん真っ黒になっちゃって! ほんと怖かったんだから……」
オリバが泣きながら訴えてくるのは、あの暗黒のオーラをまとったラウレルのことだろう。
村ではいつも笑顔で朗らかな彼だったから、あの真っ黒な姿にはギャップがあり過ぎたかもしれない。ビオレッタから見ても、あの姿は正直恐かった。
「実は……ラウレル様、本日をもって『勇者』ではなくなったんです」
ビオレッタはオリバだけでなく、村の皆に今日オルテンシアであったことを報告した。
地下牢に閉じ込められたこと、コラール姫が助けてくれたこと、怒りに身を任せたラウレルが、竜と共にオルテンシア城を襲撃したこと――
「……皆さんにはご迷惑をおかけして、すみませんでした。勇者じゃなくても……俺をこの村に置いてくれますか」
ラウレルの謝罪を聞いて、皆がシンと静まり返った。
お互いに顔を見合せ、他の誰かの出方を待っている。
代表して村長が一歩前に出ると、ラウレルを見上げた。
「村に置くも何も……君はビオレッタの伴侶になるんじゃろ?」
ラウレルは、村長の言葉に目を丸くした。
「は、はい。俺はそのつもりで居座ってますが」
「……じゃあこれからも道具屋に住むのよね?」
「『勇者』じゃなくなることってできたんだな……」
「俺も『勇者』って一生『勇者』なのかと思ってた」
「勇者様じゃないなら、ラウレルさん、って呼ぶ? ラウレルくんって呼ぶ?」
のんびりとした村民達がざわざわと騒ぎ始めたが、皆どこかズレている。
そんな村民達を前に、ビオレッタは気付いてしまった。感激屋のラウレルが目を潤ませていることを。
「おいラウレル。もう二度とビオレッタをあんな目に遭わすんじゃねえぞ。」
「はい、必ず……」
兄貴分であるシリオからぎろりと睨まれると、涙目のラウレルは深く頷いた。