キスから始まる音がする。
教室の蓮樹はそこにいるだけで明るく、温かくなれるような陽だまりみたいな存在で少し距離が遠い。
嫌いなわけではないけどあまり大人数でわいわいするのが得意じゃなくて、いつメンとささやかにおしゃべりする方が好き。
どちらかと言えば狭いコミュニティを好む私とは正反対だ。
「みらい〜、ごめん!世界史のノート写させてくれない?」
「いいよ〜きょんちゃん」
「ありがとう!みらいのノート、めっちゃ見やすいから助かる〜!」
きょんちゃんはいつも一緒にいるいつメンの一人。
高校に入って初めてできた友達でもある。
友達の役に立てるのは結構嬉しいし、ノートが見やすいと言ってもらえるのはすごく嬉しい。
ほんわかした気持ちになっていた私に、また別の子が話しかけてくれる。
「待雪さん、これこの前言ってたやつ」
「あ、柳楽くんありがとう」
柳楽くんは隣の席に座っていて、今の席になってから話すようになった。
意外と漫画好きなことを知り、私が読みたいと言っていた漫画を持ってきてくれたのだ。
「今度お礼するね」
「そんなのいいよ。それより感想聞かせて」
「わかった」
漫画の入った紙袋を受け取った私に、きょんちゃんが肘でこづく。
「みらい、いつの間に柳楽くんと仲良くなったの?」
「仲良くって程でもないよ。隣の席だから話すようになったの」
「みらいが男子と話すなんて珍しいじゃない」
「ああ、まあそうかも」
私は人見知りなので男の子と話すのは苦手。
男の子が嫌いとか苦手とかではないんだけど、何を話したら良いのかわからない。
そういう意味では柳楽くんは数少ない話せる男子だ。
「もしかしてみらいに気があるんじゃない?」
「そんなことないよ」
「柳楽くんもあんま女子と話さないじゃん」
きょんちゃんは何だかニヤニヤしていたけど、別にただのお隣さんなんだけどな。
それよりも貸してもらった漫画、読むのがすごく楽しみだ。