先生、それは✗✗です…!
駅前までは人通りの多い道だし、それほど危なくもないと思うけど――。

それでも、こうして短い距離でも送ろうとしてくれる鳥羽さんって…やさしいな。


わたしは、鳥羽さんの横顔を見上げながら思った。


――ただ。

話すことがまったくといっていいほど…ないっ。


もともと席も一番遠かったし、話してないからどんな人かもわからないし…。


鳥羽さんも鳥羽さんで口数が少ないから、自ら話題を振るような人にも思えない。

それにたぶん、わたしと会話のない気まずい空気でもそれほど気にしていなさそう。


そのせいでわたしは、なんだか…駅までの道が遠く感じる。


…どうしよう。

なにか適当に理由をつけて、1人で帰ろうかな。


「あの鳥羽さん、わたし――」


『やっぱりタクシーで帰るので、ここで大丈夫です』
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