先生、それは✗✗です…!
本当になにもされてないのなら…、少しだけほっとした。

――と思ったのも束の間。


「あっ…」


そんな声をもらす鳥羽さん。


「…どうかしたんですか?」

「いや…、なにもしてなくはなかった」


“なにもしてなくはなかった”…?

それって――。


「…キスはしたな。うん、一度だけ」


その言葉に、わたしは頭の中が真っ白になった。

なぜなら、だれとも付き合ったことのないわたしは、もちろんキスですら経験がなかったというのに。


「…待ってください。合意がないのにキスするなんてっ…。警察官が…そんなことしていいんですか!?」

「…警察官?」


首をかしげる鳥羽さん。

そのとき、廊下の向こう側から機械的なメロディーが流れてきた。


「おっ、終わったみたいだな」


そうつぶやいた鳥羽さんが、一度リビングから消える。
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