平凡な偽聖女ですが王太子様と結婚することになりました!
「お嬢様、踊っていただけますか?」
 見たことのない金髪イケメンに声をかけられました。身なりからして格上の貴族です。

「え……」
 戸惑ううちに手を引かれ、自然な流れでフロアへと導かれました。断る暇などありませんでした。

 男性のリードで踊ります。
 なんということでしょう。
 今までにないくらい体が軽く、ふわふわと踊れました。まるで足に羽が生えたみたいで、夢見心地で一曲を終えました。

「ありがとうございます」
 と男性にお礼を言われ、
「どういたしまして」
 と答えました。

 お礼を言いたいのはこちらのほうです。久方ぶりに楽しいひとときでした。
 去っていく後ろ姿に見とれていると、周囲の方から声をかけられました。

「さすが聖女さま、踊っているときに光り輝いていらして」
「え?」
 輝いているとは、どういうことでしょう。

「まるで二人のダンスに神が祝福を与えているようでした」
 とろけるようにうっとりと言う人もいます。

「言い過ぎですわ」
「みんな見てましたわよ」
 初対面の令嬢が言いました。

 友人がさらに驚くことを言いました。
「あの方、王太子殿下ですわよね。お忍びかしら」
「本当に!?」

 私は王太子殿下の顔を知りません。しがない男爵の娘ごときではお会いする機会がないからです。

「蜂密のような金の髪、アザーブルーの瞳。絶対そうですわ」
 アザーブルーとは空のような青色のことです。素直に空色と言えばいいものを、なぜか無駄にかっこつけるのが貴族というものでごさいます。

「噂の聖女さまに会いにいらしたのかしら」
 含み笑いをしながら友人は私を見ました。

「私は聖女ではありません」
「求婚されるかもしれませんわ」

「ありえませんわ」
 と私は答えたのですが。

 後日、本当に殿下から求婚が来ました。奇跡の聖女を妻に迎えたい、と。

 自分には断じて奇跡の力などありません。何もしていません。
 なのに聖女と呼ばれ、殿下に結婚を申し込まれるなんて!

 両親は大喜びでした。
 私には恐怖でしかありませんでした。
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