ウソトホント
教室の目の前で立ち止まると、大きく息を吐いた。
落ち着け。私。
いつも通り。いつも通りでいいんだ、まだ。
「何突っ立ってんの?」
「ひっ」
頭上から聞き慣れた声が振ってきて思わず肩をすくめた。
声の主は、本日のキーパーソン。
隣の席の柏木 雄大くん。
「柏木くん、おはよ」
「…何?どしたん?」
「いや、なにも」
私は扉の前から一歩横にずれ、どうぞと柏木くんを先に通すジェスチャーをした。
明らかに不審そうな視線を私に向けながら柏木くんは教室に入っていく。
私も続いて教室に入ると「ん?」と言って足を止めた柏木くんにぶつかりそうになった。
「おわっ」
「何か、…何だこれ」
クンクンと犬のように匂いを嗅ぎながら私の顔の真横で動きを止めた柏木くん。
私は1ミリも動けず、ゴクリと喉が鳴った。
「香水つけてる?」
「えっ」
「いい匂いすんだけど」
「ミストを、すこし」
「……ふーん」
彼はニヤリと笑ってそう言った。