陽気なドクターは執着を拗らせている。
1.知りたくなかった事実
私、宇野女杏月は、同期の矢田とは定期的にご飯に行ったりする仲だ。そんな矢田から、「どうしても話したいことがある」と言われ、休憩室に移動してきた。
幸い、今は誰もいない。
矢田の表情は暗く、なんとなく今から発せられるであろう話が重い話だということは分かった。
ごくりと息を呑み、
「――で、話ってなに?」
矢田の顔を覗き込むように尋ねる。
矢田から好意を向けられていると思ったことはない。告白ではないことは分かる。
「宇野女、あのさ……」
「うん?」
「武平部長と不倫してる……?」
告白ではないことは分かっていたけれど、まさか、矢田に私と武平部長の不倫が知られているとは思わなかった。
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