陽気なドクターは執着を拗らせている。


 「じゃあ、また会社で!」と、去る矢田の後ろ姿を見ながら、しぶしぶ綿谷先生の元へ近寄る。


「矢田を使ってどういうつもりですか?」

「人聞き悪いなー、偶然なんだよ。あと偶然が重なってるから忠告するけど、部長の奥さん部長が怪しいの気づいてるよ。宇野女ちゃん、バレるのは時間の問題だから、もう部長はやめなよ」


 報告しつつ、飲みやすそうなフルーティーのカクテルを頼むと、それを私の前に置いた。


「……部長の奥さんとお知り合いなんですか?」

「うん、患者さん。診察しつつ、悩み相談みたいなこと受けること多いからさ。宇野女ちゃんと部長が不倫してることは矢田くんから聞いて知ったからさ。伝えとこうと思って」


 気にかけてくれていたらしい。

 綿谷先生の、あの一夜のことは許せないけれど、今は「わざわざありがとうございます」とお礼を口にする。


 用も済んだはずだ。「……では、私はこれで」とお辞儀をして離れようとすると、

「つーかさ、宇野女ちゃん、俺とつき合ってくれるって約束してくれたよね?」


 記憶にないことを問いかけられた。


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