陽気なドクターは執着を拗らせている。
綿谷先生はすかさず私に正論をぶつけた。
「でも今、『倍率高い中奇跡的に就職できた会社』にいれなくなるような状況を宇野女ちゃんは自ら作り出してるんじゃないの?」
「…………それは」
確かにそうだ。私はまだこの期に及んでも今の会社で働きたいなどと、夢を見てしまっていた。
「俺、宇野女ちゃんのことは好きで好きでたまらないけど、部長とグルになってやってる事は好きじゃないわ。むしろ嫌いだわ」
「…………スミマセン」
「武平部長の奥さん、体があんまり強くないんだよ。ずっと通院しててさ。それなのに、部長のご飯毎食と、この前も部長の趣味の映画鑑賞に夜遅くまで付き合ってたら風邪引いたって言ってたんだよね。夜の営みも頑張ってるらしいし、そんだけ部長に尽くしてんのに、部長は宇野女ちゃんと不倫してんだもんなあー報われないよねー」
私は部長の奥さんがどういう人なのかを知らなかったから、綿谷先生の言葉に何も言い返すことができなかった。
部長に言い寄られて好きになって、『奥さんとの仲が冷え切ってるから離婚する。待っててほしい』と言われてのめり込んだ。
奥さんのことなんて考えたこともなかった。