陽気なドクターは執着を拗らせている。

　この半年間、誰にも知られずに過ごしてきた。


　これからも大丈夫だと思っていた。だから油断していた。


　矢田の返事に一瞬さえも、ためらってはいけないことは分かっているけれど、どう答えたらいいのか分からない。


　分かることは、絶対表情にはだしてはいけない、肯定はしてはいけない、ということだけだ。


「ち、がう……」


　やっとのことで絞り出された言葉は震えており、不安が表情に出てしまっていたことはバレバレだった。


　案の定、矢田は『やっぱりね』と言いたげな目で、柔らかい表情を向けたかとおもえば、ひどく眉間に皺を寄せた。


　矢田から『最低な女』と思われていることを知った瞬間だった。


「宇野女、部長の奥さんから訴えられたらどうすんの？」

「でも、部長、奥さんは全然気づいてないって。夫婦仲も冷え切ってるから自分に興味ないって言ってた」



　『肯定はしてはいけない』と分かっていたはずなのに、


　部長との不倫を肯定してしまった。