陽気なドクターは執着を拗らせている。


 それからというものの、綿谷先生との結婚前提の同居生活が始まった。


 基本的に忙しい綿谷先生だけれど、一緒にいれる日は二人の時間を大切にしてくれる。会話がある時もあれば、なくても全然平気で居心地は悪くはなかった。


 「杏月ちゃん」「優吾さん」お互いにたまに名を呼ぶこともあるけれど、基本的には「宇野女ちゃん」「綿谷先生」と呼んでいた。


 一緒に生活をし初めてちょうど1ヶ月が過ぎた頃、夜の8時に綿谷先生が「ただいまー」と、帰宅をした。綿谷先生の鞄を受け取る私は、形だけ綿谷先生の奥さんのようだった。


 ため息を吐きながら靴を脱ぐ綿谷先生。なんだかいつもより元気がない。


「綿谷先生、大丈夫ですか? 今日はハンバーグにしてみましたが、食べれそうですか?」

「いつもありがとう。明日は休みだから俺が作るね」


 そう言いながら、「いやあーまいったなー」と、また息をついた。


 私には言えない何かがあったのかもしれない。


< 30 / 48 >

この作品をシェア

pagetop