陽気なドクターは執着を拗らせている。


 胸に名札を下げ、清掃のスタッフに挨拶をしながら会社の中へと入る。私の部署に着くと、武平部長は今日もコーヒーを優雅に飲んでいた。


「武平部長、おはようございます」


 私の声で武平部長の目線は私へと向いた。そして、あからさまに嫌そうな表情を私に向ける。


「おまえ、今有給中だろ。何しにきた」


 奥さんのことは私の口からは絶対に言わないほうがいい。部長を外に出すことだけを考えよう。


「部長、以前は大変失礼な事を言ってしまいスミマセンでした……」


 部長に深く頭を下げる。


「正直、凄く腹は立ったよな。でもまあ、反省してるんなら許してやる」


 部長は私の体を舐め回すように見た。その視線だけで鳥肌が立ちそうだ。


「釜橋に高い時計渡したのに結局上手くいかなくてなあ。宇野女、悪いと思ってるんなら責任取れよ」


「……責任、ですか」


「そうだなあ、何をしてもらうかなあ……」


 このオフィス内で部長の次に出社が早いのが矢田だ。けれどまだ、矢田が来るには30分もある。


 30分、部長から何もされない自信がない。


 部長が手を出してこないはずがない。


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