陽気なドクターは執着を拗らせている。
「いいですねー。部長、奥さんと結婚して20年でしたっけ?」
「そうなんだよ。夜の方もまだまだ元気だよー、ハッハッハ」
私には奥さんとの仲は冷え切っていると言っていたのに、矢田の言った通り嘘だった。
部長は奥さんと別れる気はない。私だけ本気になって、鵜呑みにしてバカみたいだ。
矢田は『任せろ』と、私の耳元でボソッと囁くと、私の手をガッチリと握った。
「あれー、部長に皆さんこんにちは。部長の話し声聞こえちゃったんですけど、嫁さんと20年目でも未だに仲いいんですね。羨ましいなー!」
矢田は私の腕を引きながら、喫煙所の中へと足を踏み入れた。矢田に連れられる形で、私も喫煙所の中へと入り、部長に近寄る。
部長の視線が私に向いているのが分かる。
「…………矢田、おまえ、どういうつもりだ?」
先ほどとは違って、部長の低い声が矢田に向かって発せられた。