陽気なドクターは執着を拗らせている。
矢田は武平部長を物怖じしていない。
「何がです?」
あっけらかんと返す矢田に、部長は「矢田はタバコ吸わねぇだろうが。それとも、宇野女が吸うのか?」と、怒りの矛先を私に向けた。
「……いえ、僕、来月彼女と入籍するんで。20年経っても夜の営みが絶えない部長に、仲良しの秘訣を聞きたいなと思いまして」
矢田はサラッと部長におめでたい報告をした。
矢田に彼女がいて、来月入籍をするだなんて知らなかった。
同期で仲が良いと思っていたのは私だけだった。
部長にも裏切られ、同期の矢田からも彼女のことは何も告げられず。自分の思い違いに恥ずかしくて、つくづく情けない。
部長は『おめでとう』の言葉は告げずに、
「……その入籍っつーのは、そこの宇野女とするのか?」
私との仲を疑った。
「いえ。違いますね。昼休憩一緒に取ったんで、つきあってもらってただけです」
「じゃあその腕はなんだよ。来月違う女と入籍するっつーのに、宇野女の腕を掴んでていいのか?」
「宇野女とはただの友達ですし、宇野女歩くの遅いから僕が一方的に腕掴んでいるだけですし、なんの問題もありませんが?」
このバチバチした空気感に耐えきれなくなった部長の部下が、『矢田! おまえもうあっちいけ!』と、しっしっと追い払う仕草をした。