陽気なドクターは執着を拗らせている。
東医療センターの内科医、綿谷先生とは、患者と医者ではない。
1年前、居酒屋でたまたま隣の席になったことを良いことに、おひとり様だった私に、同じくおひとり様を満喫していた綿谷先生が話しかけてきたことが始まりだった。
綿谷先生は陽気な人で、話してたら面白くて。顔もかっこよくて、東医療センターでは評判の先生だ。
記憶をなくし、目を覚ますとどこか分からない部屋に連れ込まれていた。ベッドの上にいた私は衣服を身につけておらず、隣には同じく私同様、衣服を身に着けておらず、気持ちよさそうに寝ている綿谷先生がいた。
ベッド付近に散らばっていたのは大量の使用済みのティッシュと大量の使用済みの避妊具。それに見たことない大人のオモチャが数多く散らばっていた。
体に異物感があったのは分かった。綿谷先生を受け入れてしまったことも分かる。ただ、どういう夜を過ごしてしまったのか、記憶にない私は思い出したくもなかった。
綿谷先生の連絡先をブロックし、逃げてしまった。
あれ以降、体調が悪くなると病院も東医療センターではなく、違う病院へと行くようにしていたし、あの居酒屋にもあれ以降行っていない。
矢田は何も悪くないけれど、つい、矢田を強く睨んでしまう。