恋愛下手の恋模様~あなたに、君に、恋する気持ちは止められない~
「人前でこんな醜態をさらすなんてこと、今まではなかったんだけどな。今日顔を合わせたばかりだっていうのに、迷惑をかけてしまった。本当に申し訳なかったね」

「いいえ、そんな……。ひどくならないようで安心しました。補佐、もし良かったらこの毛布を使ってください。夜はまだ少し冷えますから」

私は補佐の側まで近寄って毛布を差し出した。

「ありがとう」

毛布を受け取ろうと伸ばした補佐の手が、私の指先に触れた。

私は思わず手を引っ込めた。そのせいで毛布が床に落ちそうになった。慌てて掴もうとして結局失敗する。

「す、すみません」

毛布を拾い上げて顔を上げた時、補佐と目が合った。途端に耳の辺りがカッと熱くなる。

「あ、あの」

これ以上は彼を見ないように目を伏せて、私はたたみ直した毛布をソファの端に置いた。

「ゆっくりなさっていて下さい」

「あぁ、ありがとう」

私は補佐に会釈をすると、たいして広くもないキッチンスペースに移動した。あのまま彼の前には居続けられなかった。もしあの場にとどまっていたら、まだふんわりとしているこの感情があっという間に育ってしまいそうで怖かった。

補佐はきっと私の様子を怪訝に思っただろう。彼の表情を確かめたわけではなかったが、「ありがとう」と言った時の声に、戸惑いがにじんでいたのがその証拠だ。

とにかく何か飲んで落ち着こう――。

私はお茶を淹れるためにポットのスイッチを入れた。沸かしたお湯でハーブティを淹れる。飲むかどうかは分からないが、補佐の分も用意した。いつまでもここにいるわけにもいかない。平常心を取り戻すために何回か深呼吸をしてから、私は二つのマグカップを手にして補佐が休んでいるはずのリビングに戻った。

「補佐、ご気分はいかがですか?」

部屋に入りながら私は補佐に声をかけた。しかし返事がない。そうっと様子を伺うと、彼は目を閉じて体をソファに沈み込ませていた。

私は音を立てないように注意を払い、マグカップをテーブルの上に置く。足音を忍ばせて彼の傍まで近づいた。

寝てる……。

補佐は静かな寝息を立てていた。

顔色が戻ってきているのが見て取れて、私はほっとした。時計はもうすぐ午前二時になるところだったが、もう少しだけ寝かせておいてあげようと思う。あくびをかみ殺しながら、ずれていた毛布を掛け直す。
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