恋愛下手の恋模様~あなたに、君に、恋する気持ちは止められない~
築山さんは手際よく、優雅な手つきでシェイカーを振り、カクテルを作っていく。出来上がったそれを私の前にことりと置くと、彼は目元を和らげて私を見た。

「やっぱり匠のこと?」

今さら隠すまでもない。私は素直にこくりと頷いた。

「ご本人に直接聞くべきなのは分かっているんです。でも、なかなか会えないので……」

会えないというよりは、今はまだ会ってはもらえない、というのが、たぶん正しい。

「匠、忙しいの?」

「そう、ですね。会社でお見掛けすることの方が少ないです」

「ふぅん。あれからまた、二人で会ったりはしたの?」

「いえ……」

胸がちくりとする。

言葉少なに答える私に、築山さんは洗い終えた道具を拭きながら言った。

「実を言うとね。匠から言われてたんだ。もしも君がここに一人で来ることがあって、何か訊ねられたら話してあげてくれって」

「え?」

私は弾かれたように顔を上げて、築山さんを見た。

もしかして、私と補佐の間に何があったのかを知られている――?

築山さんは私を安心させるように笑い、そして続ける。

「今まで、あいつから君の話を聞いたことはなかったんだ。だけどこの前、店に一緒に来たでしょ?匠がここに女性を連れて来たのって、君が初めてだったんだ。だからあの時、実は結構びっくりしたんだよね」

「初めて?」

築山さんは頷き、私を見て微笑んだ。

「匠にはさ、自分のことなんだから自分で言えよ、って何度も言ったんだよ。なのにあいつ、自分から話すとそこに嫌なマイナスの感情が入ってしまうから、とか言ってさ。君が何を聞きたがっているのか、匠はちゃんと分かっている。俺もね、あのことしかないなって、予想してるけどね」

築山さんはくすっと笑った。

「匠のやつ、よっぽど君に嫌われたくないらしい」

どういう反応をしたらいいのか、私は困って目を泳がせた。

「君はさっき、ここに来たことを匠には知られたくないと思ったんだよね?だけどそういうことだから、心配しなくてもいい。そんなわけで俺は初めから、君にあいつのことを話してあげるつもりでいたよ。ただしその前に、一つだけ聞いておきたいんだけど、いい?」

私は緊張した。
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