恋愛下手の恋模様~あなたに、君に、恋する気持ちは止められない~
補佐は固い声で言った。

「何が言いたいんだ?」

宍戸は顎を引いて、補佐を真正面から見つめた。

「俺が岡野をもらっても、全然かまわないですよね?」

私は動揺した。その話はもう決着がついたはずだった。それなのに宍戸はまだ私のことを諦めていないのだろうか。

補佐の低い声が聞こえる。

「もらうとかもらわないとか、岡野さんは物じゃないだろう。もう戻るぞ」

「待ってください。答えて下さい」

宍戸は、背を向けようとした補佐の腕を掴んだ。

「岡野が物じゃないなんて、そんなことは分かってます」

宍戸は補佐の腕から手を離した。

「じゃあ、言い方変えます。補佐が岡野のことを何とも思っていないのなら、俺はあいつが振り向いてくれるよう全力で行きますから。補佐はもう、岡野に近づかないで下さいね」

「だからっ」

補佐の声に苛立ちが混じった。

「どうしてわざわざ、そんなことを俺に言うんだ」

「どうして?じゃあ、いいんですね。俺があいつを抱いても」

「何を急に、訳の分からないことを」

補佐の声に動揺が走ったように思えた。

宍戸は壁に背を預けて腕を組んで立つ。

「岡野を俺のものにするのに、そういう手段もあるってことですよ」

酔っぱらって、宍戸に部屋まで送り届けてもらった夜のことを思い出して、どきりとした。理由はどうであれ、あの時私は一瞬、気持ちが揺らぎそうになった。でも、と私は誓うように両手を握りしめる。

二度と流されそうになったりはしない――。

宍戸は続ける。

「俺は、これまで何度も岡野に気持ちを伝えたんです。でもその度に、補佐のことが好きだからって振られてた。こないだなんかは、もう我慢できなくなって、あいつが弱ってるのをいいことに、いっそこのまま抱いてしまおうかとも思ったんですけどね」

「お前――」

補佐の口から低く静かな声がもれた。それは、感情を抑え込むような声だった。

「もちろんそんなことできなかった。だって、あいつ、泣くんですよ。補佐の名前を言って。だから――」

宍戸は自分の足元に視線を落とす。

「補佐が岡野の気持ちを受け入れられないっていうんなら、さっさと振ってやってくれませんか。そうすれば、あいつだって諦めがつきます。だいたい選択肢なんて、イエスかノーかのどちらかしかないんだから、答えるのなんか簡単でしょ。俺は、あいつが泣く顔なんて見たくないんです」
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