恋愛下手の恋模様~あなたに、君に、恋する気持ちは止められない~
私は自分の顔を隠すように補佐の胸に頬を寄せた。

「私が惹かれたのは、そういう部分だけじゃない。仕事を離れた時に見せてくれた普段着の姿、時には悪戯っぽく笑う表情、他にも色々です。そして、完璧じゃない補佐のことも全部まとめて好きなんです」

「……ありがとう」

補佐は私の髪に顎を埋めた。

「岡野さんの気持ちを信じられないわけじゃないんだ。離婚歴があって、不甲斐ない自分に、俺自身が自信を持てないだけ。でも、さっき宍戸の話を聞いた時に」

私を抱く補佐の腕に力が入った。

「君をとられたくないと思った。宍戸だけじゃない、他の誰からもだ」

頭の上で響く彼の低い声に鼓動がどきどきと打ち出す。私は顔を上げて彼の視線を捕らえ、その目をじっと見つめた。

補佐もまた私を見つめ返す。少しだけ照れたような目をして、ゆっくりと、しかしはっきりと言った。

「岡野さんが、好きだよ」

「本当、ですか…?」

私は補佐の瞳を覗き込んだ。

今度は彼も目を逸らさなかった。

彼の瞳の真ん中には、私の姿が確かに映っていた。胸の内に、喜びがじわじわと広がり出す。

「本当だよ。俺の傍にいてほしいと思っている。だけど、その言葉はまだ言えない」

「どうして?」

不安な気持ちを顔に出す私に、補佐は苦さを含んだ笑みを向けた。

「まずは、けじめをつけさせてほしいんだ」

「けじめ?」

訊き返す私に補佐は頷く。

「自分からも、当時のことを話しておきたい」

「それはもう……」

「慎也から聞いたよね。でもやっぱり、好きになった人にはきちんと自分で話すべきだったと、今さらだけど後悔しているんだ。こんな話をまた聞かされたくはないとは思う。だけど、俺の禊だと思って付き合ってもらえないだろうか」

私はもう十分だと思っていたけれど、補佐にとっては前進するために必要なことなのかもしれない。そう思い、こくりと頷く。

「分かりました」

補佐はほっとした様子を見せた。

「今夜、予定はある?」

「いえ、特にありません」

「じゃあ、慎也の店で待っていてほしい。俺は少し遅れると思うけど、慎也には連絡を入れておくから」

「はい」

「ごめんね。岡野さんの優しさに甘えている自覚はあるんだ」

そう言って補佐は、私の体に回していた腕を解いた。

「後で、会おう」

「はい」
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