恋愛下手の恋模様~あなたに、君に、恋する気持ちは止められない~
補佐はそっと私の手を取ると、真剣な眼差しで言った。

「もう一度、改めて言わせてほしい。――君が好きです。これから先、俺の傍にいてくれますか」

それは待っていた言葉だった。けれど気持ちが溢れてうまく声が出せない。

答えを促すかのように、補佐は両手で私の手を包み込む。

「はい、って言ってくれないの?」

間近で見つめられて、苦しくなるほど鼓動が鳴る。私はこくんと頷いた。

補佐は私の両手をぎゅっと握った。  

「俺と付き合ってください」

「はい……」

今度はどうにか声を絞り出すようにして答えた。その途端、私の目から涙がこぼれ落ちた。

補佐の指が私の頬を伝う涙を払う。彼はそのまま私の顎を軽く持ち上げ、顔を寄せた。

キス、される――。

どきどきしながら目を閉じた私に、補佐が突然訊ねた。

「宍戸からは何回キスされたの?」

「えっ、えぇと、あの……」

予想していなかった質問に、私は焦りつつ目を開いた。  

「宍戸の話からすると、あの資料室での他に一回。つまり少なくとも二回。いや、もしかしてそれ以上?」

私は目を逸らした。本当はそれだけではなかったと思う、たぶんだけれど。第一そんなことを正直に言えるはずがない。

黙り込んだ私の耳元に、補佐は唇を寄せて囁いた。

「消毒する」

補佐はきっかり二回、私についばむようなキスをした。
 
咄嗟のことで目を開いたままだった私は、補佐の肩越しに築山さんの背中が見えてはっとする。

待って、ここはお店!

私は慌てて補佐の胸を押した。

「こういう場所で、こういうことをするのは……」

「ごめん。つい」

照れ笑いを浮かべる彼を見たら、私の頬は緩んだ。

私が今この人と笑い合っていられるのは、背中を押してくれた人がいたからだと、宍戸の顔が思い浮かぶ。その方法が荒っぽい時もあったが、彼が私と補佐の想いをつなぐきっかけを与えてくれた。少なくとも私はそう思っていて、できればありがとうの気持ちを伝えたいなどと思う。

ふと視線を感じて顔を上げると、私をじっと見つめる補佐と目が合った。

「今、誰のことを考えていたの?」
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