恋愛下手の恋模様~あなたに、君に、恋する気持ちは止められない~
私は素直に答えた。

「宍戸にはたくさん助けてもらったな、と……」

「あぁ、確かにね。岡野さんとこんな風になれたのは、宍戸がきっかけを与えてくれたおかげもあるよね。でもね……」

補佐は目を細めた。

「普通なら、ここはこう言う場面なのかな」

「何のことですか?」

首を傾げる私に補佐はくすっと笑う。

「他の男のことは考えるな、って」

補佐は指で私の唇を撫でながら続ける。

「今日は大目に見てあげるよ。でもこれからは、他の誰かのことを考える暇がないくらい、俺は君を大事にするつもりでいるからね」

「え……」

私の頬や耳の辺りが熱を持つ。

ひと晩寝たら実はすべてが夢だった――。そんなことになったりしないわよね?

補佐の甘い言葉と展開に、幸せ過ぎて不安な気持ちになりそうだった。けれど私の目の前にある補佐の眼差しと、私の唇をなぞるように撫でる彼の指先の感に、これが夢でも嘘でもなく、確かに現実のことなのだと私に教えてくれている。

「ええっと、失礼いたします」

少し離れた所から、突然、咳払いと声がした。

私は補佐から慌てて離れた。そうっと声の方を見ると、築山さんが立っていた。

今の、見られたかしら――? 

やや不機嫌そうな声で補佐は言う。

「なんだよ」

「だってさぁ、なんだか気になって」

築山さんはにこにこと満面の笑みをたたえて、私と補佐を交互に見た。

「後で、って言っておいただろ。用があったら呼ぶってさ」

自分を邪魔にするような補佐の様子にも動じず、築山さんは笑みを崩さない。

「そうだったんだけどね。みなみちゃん、さすがにおなかが減ったんじゃないかなぁ、と思ったからさ」

築山さんに言われて思い出す。ここに来てからの私はずっと緊張していたこともあって、まだ何も口にしていなかった。食べながら待っていようという気にならなかったのだ。

築山さんは私の前に、料理が乗ったお皿と取り皿やスプーン、フォークを並べた。

「ありがとうございます」

恥ずかしいのを我慢して、私は補佐の後ろから顔を出して礼を言った。

「それから、あの、その節は大変お世話になりました……」
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