恋愛下手の恋模様~あなたに、君に、恋する気持ちは止められない~
頭を下げようとした私に、築山さんはにこっと笑った。

「どういたしまして。あとでお祝いにデザート出してあげるからね」

「お祝いって……」

赤面する私に目を細め、それから築山さんは補佐にも笑顔を見せた。

「匠、良かったな」

補佐は照れ臭いような顔で親友を見上げた。

「色々心配かけたな。ありがとう」

「おう。邪魔者はもう消えるから、気のすむまで二人でごゆっくり」

そう言ってカウンターの方へ戻ろうとした築山さんだったが、急に足を止めて私を見た。

「みなみちゃん、この前、言い忘れてたことがあったんだ」

「なんでしょう?」

「匠はね、一見ドライに見えるけど、実はなかなかに熱い心の持ち主なんだ」

「はぁ……?」

「だから気をつけてね」

「気をつける、ですか?」

「うん。どろどろに溶かされないように」

「えっ?」

私は目を瞬いた。

「慎也、もうあっちに行けよ」

やや苛立った補佐の声が築山さんを追い払おうとする。

「はいはい、お邪魔しました。用があったら呼んでね」

陽気に言って背中を向けた親友を見送って、補佐は深々とため息をついた。

「あの、今、築山さんが言ったことって……?」

「慎也の戯れ言だよ。気にしないで。ほんとにあいつは賑やかなやつで……ごめんね」

「築山さんは、補佐のことが本当に大好きなんですね」

「その言い方はちょっと語弊があるというか……」

補佐は苦笑を浮かべる。それからしみじみとした口調で言った。

「でも、あいつには色々と心配かけたから。これで少しは安心してくれたかも」

「お互いにお互いを想う気持ちが、ひしひしと伝わってきます」

私はふふっと笑った。

補佐の顔に、複雑にも見える表情が浮かんだ。驚いたような、安心したような、嬉しいような、そこには様々な感情が入り混じって見えた。

「岡野さんが、俺の前で初めて自然に笑ってくれたような気がする」

そう言いながら補佐は私の頬に手を伸ばし、優しく触れた。

「岡野さん。これから、よろしくね」

「はい。よろしくお願いします」

私は補佐の手に自分の手を重ねた。切なく感じるほどの喜びを感じながら、彼の手をきゅっと握る。彼を見つめて頬に笑みを刻んだ。それはたぶん、目の前のこの人を好きになってから今までで初めての、曇りのないまっさらな笑顔だったと思う。
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