恋愛下手の恋模様~あなたに、君に、恋する気持ちは止められない~

忘れ物

ひと寝入りして目を覚ましたのは、お昼過ぎだった。

「うーん……」

ぐっと体を伸ばし、のろのろと起き上がる。

二日酔いはないが、眠りについたのが明け方だったからか、体が重い。

とりあえず何か口に入れようと冷蔵庫を開けた。が、入っていたのは、水とヨーグルト、トマト、卵が二つ。それなのに昨夜、補佐に対して「何か召し上がりますか」などとよく言えたものだ。彼が「うん」と言わなくてよかったと思う。

買い物に行こう。

私は手早くシャワーを浴びると、出かける準備をした。働き出してから習慣となった薄めのメイクは忘れない。玄関のチャイムが鳴ったのは、靴に履き替えようとした時だった。

この部屋にインターホンはついていない。ドアの小さなのぞき窓から外の様子を伺って、すぐに息を飲んだ。そこに山中部長補佐の姿があったからだ。

どうして……?

驚くと同時に、メイクしておいてよかった、などと思う。前髪を指でそろえながら、私はドキドキしながらドアを開けた。

彼は私を見ると、爽やかな笑みを浮かべた。

「こんにちは」

「こ、こんにちは」

目の前で笑顔を見せる彼は、昨夜とは違いカジュアルな格好をしていた。スーツ姿の時とは別人のように親しみやすい雰囲気だったが、それがまぶしすぎる。直視できなくて、私はわずかに視線をそらした。

「えぇと、どうかされましたか?」

動揺を抑えようとしたら、とても平坦な口調になってしまった。無愛想に聞こえてしまったかもしれないと思ったが、補佐にそれを気にした様子はない。

彼は穏やかな声で言った。

「突然ごめんね。――もしかして、これから出かけるところだったかな」

「えぇ、まぁ……」

「実はちょっと忘れ物があって。連絡先を知らないから、迷惑を承知で直接来てしまったんだけど……」

「迷惑だなんて、そんなことはないのですが。ええと、何をお忘れになったのでしょうか?見てきます」

「忘れ物は……」

補佐が後ろ手に持っていた紙袋を差し出した。

「これ。夕べのお詫びに」

「え?」

「たいしたものじゃないんだけど、受け取ってくれない?」

中を覗き込むと、そこにはワインが二本入っていた。

「困ります、こんなの。気を使わないで下さい」

「つい最近友人からたくさん送られてきてさ。一人じゃ飲み切れなくて。おすそ分けみたいなものだから、気にせず受け取ってもらえたら嬉しいんだけど」

「でも…」
< 12 / 112 >

この作品をシェア

pagetop