恋愛下手の恋模様~あなたに、君に、恋する気持ちは止められない~
もしかして、私を心配してくれているの……?

私はおずおずと宍戸を見た。

「お昼の時はごめんね。変なところを見せてしまって」

「いや、俺の方こそ。余計なことを喋ってしまった、って反省してた」

「宍戸のせいじゃないもの。それに、直接遼子さん本人から聞いたとしても、やっぱり私、あんな風になったと思うから」

「そうか。でも、やっぱり……悪かったな」

そう言うと、彼は自動販売機でコーヒーを二本買って、そのうちの一本を私に差し出した。

「この時間にコーヒー飲むと、眠れなくなるとか言うヒト?」

私は小さく笑いながらそれを受け取った。

「平気。ありがと」

宍戸の携帯が鳴り出した。彼は画面を確かめるとはっとした顔をした。電話に出る前に早口で言う。

「何かあったら、いつでもつき合ってやるからな。……申し訳ございません。大変お待たせいたしました、宍戸です」

普段よりもワントーン上げた柔らかい声で、電話に出た。仕事の内容だったらしく、宍戸は畏まった言葉遣いで対応し始め、私に背を向けて早足で去って行く。

お疲れ様のひと言を言いそびれたと思いながら、私は彼の後ろ姿を見送った。

その日から数日たった週明けの朝礼で、遼子さんの退職が全員に伝えられた。

朝礼が終わると、みんな残念そうな顔をしながら遼子さんの周りに集まった。それぞれが祝福の言葉を投げかけている。

それを見ていたら、彼女の退職が現実であることを改めて実感した。ぐっと込み上げてくるものがあって目尻が濡れそうになる。

そんな私の目が補佐の姿を見つけたのは、自分の席に戻る時だった。彼はみんなから少し離れた場所に立っていた。

今の今まで遼子さんの退職を惜しみ悲しんでいたというのに、現金なことに私はもう胸を高鳴らせていた。補佐の近くに行きたいと思った。けれど私には彼との仕事上の接点がない。気軽にその側には行けない。私はもどかしい気持ちをもて余しながら補佐を遠目に眺めていたが、ふと気づいた。

どうしてそんな目で遼子さんを見ているのですか――。

憂いを帯びた補佐の表情に、私の胸はざわめいた。
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