恋愛下手の恋模様~あなたに、君に、恋する気持ちは止められない~
1.初対面の日

歓迎会

就職をきっかけに、私はこの春から念願の1人暮らしを始めた。

会社は自宅からでもなんとか車で通勤できる距離にあった。けれど、常々「一人暮らし」を経験してみたいと思っていた私は両親を説得し、その願いを実現したのだった。

会社は県下トップクラスの大手ゼネコン。新人の私の配属先は営業課。営業職たちのサポートをするのが主な仕事だった。

すでに入社前に研修を受けてはいたが、いきなり実地は難しい。そのため数か月は、一人ひとりに先輩社員がついて指導してくれることになっていた。私の指導役は、白川遼子さんと言った。

彼女との対面の時、私はかなり身構えていた。これまで小耳に挟んだことのある『新入社員あるある』では、先輩にいじめられたというエピソードを聞くことが多かったからだ。

私を指導してくれるその先輩が、そういうタイプの人ではありませんように――。

私は課長に連れられて、どきどきしながら彼女の元に挨拶に向かった。

すると案に相違して、彼女は穏やかな笑顔で手を差し出したのだ。

「白川遼子です。これからよろしくね」

「初めまして。岡野みなみです。どうぞよろしくお願いいたします」

私はおずおずと彼女の手を握り返した。

「岡野さん、ね。下の名前、みなみさんっていうんだ。素敵ね」

そう言ってふふふと笑う彼女は、とても可愛らしい人だった。

私の不安の一つは、あっという間に消えた。

私が彼女に打ち解けるまで、時間はかからなかった。彼女が素敵な人だったことはもちろんだけど、私が一人っ子で姉という存在に憧れていたせいもあっただろう。私は彼女のことを「遼子さん」と下の名前で呼ぶようになっていた。

優しいけれど厳しい先輩の指導を受けながら、私は奮闘する毎日を送っていた。

そんなある日の、四月も終わり近くなった頃だった。延び延びになっていた私たち新人の歓迎会が開かれることになった。

いい機会だと思ったのは、私だけではなかったと思う。なぜなら営業職は外出が多く、名前どころかまだ顔を見たことがない人もいたからだ。

当日は、店の一間を借り切っての飲み会となった。

総勢およそ三十名といったところだろうか。ざっと見渡してみたところ、部内のメンバーのほとんどが参加しているように見えた。
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