恋愛下手の恋模様~あなたに、君に、恋する気持ちは止められない~
歓迎会は、ほぼ予定通りに始まった。

料理もお酒も程よく行き渡り、場が賑わい出した頃、すらりと背の高い男性が颯爽と姿を現した。

見覚えがなかった。やや長めの前髪が額に影を落としている。そのおかげで目元ははっきりと見えなかったが、その人のまとう空気感からなんとなく、イケメンにカテゴライズされる人に違いないと決めつける。

絶対に世界が違う人だ――。

そんなことを思っていると、私の対面に座っていた同期の宍戸が勢いよく立ち上がった。

「補佐、お疲れ様でした!」

その人は宍戸の声に振り向くと、軽く片手を上げた。

それがきっかけとなって、他の社員たちもその男性に声をかけ始めた。

彼は一人一人に応えながら、部長が座る席へと近づいて行く。

お酒が入って上機嫌な様子らしい部長が、彼の肩を軽くたたいているのが見えた。

私は隣に座る遼子さんに訊ねた。

「今来られたあの方、どなたですか?」

「え?」

ほろ酔い加減でくつろいでいた遼子さんは私の視線の先をたどり、目元を緩めた。

「山中補佐ね。正確には部長補佐。大きな案件を抱えていたから、この何か月かはほとんど毎日外を飛び回っていたのよね。だから初めて会うっていう新入社員は、たぶん岡野さんだけじゃないと思うわ」

「ふぅん。お忙しい方なんですね……」

「あの人に興味あるの?」

宍戸が私たちの会話に割り込んできた。にやにやしながら身を乗り出してくる。

「山中部長補佐、短くしてみんな補佐って呼んでるんだけど、社長からも一目置かれているらしいよ。以前関連会社にいたらしいんだけど、社長があの人の仕事ぶりにほれ込んで、自らヘッドハンティングしたって話もある。いずれは役員まで上り詰めるんじゃないか、なんて噂もあるみたいだよ。そんなだから、接待だとか、記念パーティーだとか、色々と引っ張り出されることも多いらしくてさ。見た目があんなだろ?その場にいる女性たちの目はあの人に釘付けだってさ。すごいよなぁ。仕事ができて、かっこよくて、女性にもモテて。まったく羨ましいよ」

私はグラスを両手で持ちながら相槌を打った。

「へぇぇ……。若く見えるけど、すごい人なんだ。そういう人って、ほんとにいるんだね」
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