恋愛下手の恋模様~あなたに、君に、恋する気持ちは止められない~
会議を前にして、私や他の新人たちは先輩たちを手伝って、会議室や資料の準備、その他雑事に追われて走り回っていた。会議には社長を含めた役員たちも出席することになっていたから、いつも以上に気が張る。

役員たちが営業部長の先導で廊下を通り、応接室へと向かう。普段滅多に顔を合わせない、私にしてみればそれこそ雲の上の方々だ。部長からお茶を出してくれと頼まれた遼子さんと一緒に、役員たちが居並ぶ応接室に入った時は、粗相をしないようにと相当緊張した。

会議が始まってしばらくしてから、遼子さんの内線に電話がかかって来た。

その時遼子さんは別件で席を外していて、そこには私しかいなかった。

電話を取って名乗ると、山中部長補佐からだった。

―― 白川さんは?

「今は離席中ですが……」

―― そうか……。じゃあさ、岡野さん、申し訳ないんだけど今日の資料を二部、急いで持ってきてくれないか。汚してしまった方がいらしてね。

「はい、ただ今お持ちします!」

私は電話を置くと余分に用意してあった資料を手に持った。念のため少し多めに持って行こう。

私は先輩にそのことを伝えてから、急ぎ会議室へと向かう。役員方もいると思うと緊張する。私は深呼吸をして会議室の後ろのドアを静かにノックした。頭を下げて中に入ると、ずらりと人が座っていて圧倒される。全部署の役付きクラスの人たちだ。

私に気づいた補佐が小さく手招きした。

私は腰をかがめながら彼の傍まで行き、そっと資料を手渡した。

「助かったよ」

小声で言う補佐に私は頭を下げると、足音を忍ばせてその場を離れた。会議室を出る時にちょうど補佐が立ち上がったのが見えた。彼は堂々とした様子で前に出て行き、私が持ってきた資料を役員と思しきお二人に渡してから、映像を映し出したモニターを見ながら話し出した。

「さて、今回の案件はわが社もJVの一旦を担う形で施工に参加することになっております。わが社の他に三社。ですので、各担当部署においては……」

そこまで聞いた時、補佐が私の方へ視線を飛ばしたのが分かってはっとした。

しまった、つい……。

誰にというわけでもなく私は慌てて頭を下げると、そそくさ会議室を出た。廊下を戻りながらため息をつく。

補佐をすごい人だと改めて認識しながら、私は彼と自分との差をひしひしと感じていた。一方では、仕事モードの補佐を目の辺りにして、ときめいたのも事実だった。
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