恋愛下手の恋模様~あなたに、君に、恋する気持ちは止められない~
宍戸が意味ありげな目で私を見た。

「やっぱり岡野もあぁいう人がタイプ?」

「え?!」

飲みかけていたビールを危うく吹き出しそうになった。私は慌てて口元をハンカチで覆うと、呆れ顔で宍戸を見る。

「いきなり何?」

「だって、さっきからずっと、補佐を目で追ってるからさ。もしかして好きなのかな、って思ったから」

「好きって……。やめてよ」

私は即座に否定した。

「顔と名前を覚えようとしていただけです」

宍戸は唇を尖らせた。

「なによ」

「もしかして自覚ないの?てっきりそうなのかな、と思ったんだけどな。でも、山中補佐なら仕方ないよな。岡野ってそういう免疫が全然なさそうだし、あの人に堕ちるのなんかあっという間だろうな」

「ちょっと、まさかの絡み酒?……宍戸、もう酔っぱらってるの?」

私は苦笑しながら、空になっていた彼のグラスにウーロン茶を注いだ。

宍戸はそのグラスに手を伸ばし、ぐいっと中身を飲み干す。

その時、笑いを含んだ声が頭上から降ってきた。

「今年の新人同士は仲がいいんだね」

私と宍戸は慌てて姿勢を正し、声を揃えて言った。

「お疲れ様です」

「ここ、お邪魔してもいいかな?」

「もちろんです!」

私たちは目を合わせた。

まさか、今の聞かれた……?

どうだろ……?

聞かれていなかったとしても、話題にしていた本人が目の前にいるのは気まずい。

私は目を伏せたまま、テーブルの上を急いで片付けた。

「ありがとう」

補佐からそう声をかけられて顔を上げた私だったが、一瞬息を飲んだ。

社長から一目置かれているすごい人――。

宍戸からそう聞いた時は、厳しい人なのかと思っていた。遠目で見た時にもそう思った。それなのに、その笑顔は反則級だ。その顔には、相手の警戒心を解いてしまうような柔らかい笑みが浮かんでいた。

いやいやいや。これこそが実は、営業用の顔というものなのかもしれない――。

その笑顔につられないように、と私は気を引き締めた。
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