恋愛下手の恋模様~あなたに、君に、恋する気持ちは止められない~
それは補佐の耳にも届いた。
「どうかした?」
何を思っていたか悟られたくない。私は首を横に振った。
「なんでもありません」
私は再び夜空を見上げると、わざと明るい声で言った。
「それにしても、今夜は本当にお月見日和ですね」
そうだね――。
そんな言葉が返ってくるだろうと予想していた。けれど補佐は静かな声で私に訊ねた。
「何を考えていたの?」
私は無言でそのまま自分の手元に目を落とした。
私の言葉を待つように、補佐がじっとこちらを見つめているのが分かる。
本当の事は言えない。適当な理由もすぐには思い浮かばない。困った私はさらに口をつぐみ、うつむいた。
「ねぇ、岡野さん」
補佐の静かな声がした。
「何を気にしているの?」
私は顔を上げずに答える。
「何も……」
そう言ってから気づく。彼の尋ね方は、私が何かを気にしていることが前提となっている。
「本当にそうかな?」
黙ったままの私に、補佐はなおも言葉を重ねる。
「時々考え込むような顔をしたり、俺から目を逸らしたりするのはどうして?」
私の胸がどきりと鈍い音を鳴らす。
「そんなことは……」
否定しようとする私を制するように、彼は続けた。
「今だってそうだよね」
そこでいったん補佐は言葉を切る。
「君が俺に対して壁みたいなものを感じていることは、理解しているんだけど。……話してみない?」
「いえ、それは……」
言えない。
「俺には言いにくいこと?」
「……」
もちろん言いにくい。
補佐は距離を詰めるように、だんだんと核心に迫ってくるように問い続ける。
答えられない私はますますうつむいた。
「ごめん!」
口調を変えて彼は謝った。
「これじゃあ、まるで尋問だよね」
「いいえ!」
私は弾かれたように、ようやくここでぱっと顔を上げた。
「私の態度が補佐を不快な気分にさせてしまったのでしたら、私の方こそ謝らなければいけませんから」
そう言って彼に頭を下げながら少しほっとした。この流れであれば、ひとまず彼からの質問攻めは終わりそうだ。息苦しくなるような緊張状態から、もう解放されると思ってもいいだろうか。
そう思いながら、補佐の表情を伺うようにちらと目を上げた。不意打ちを受けたのはその時だ。
「どうかした?」
何を思っていたか悟られたくない。私は首を横に振った。
「なんでもありません」
私は再び夜空を見上げると、わざと明るい声で言った。
「それにしても、今夜は本当にお月見日和ですね」
そうだね――。
そんな言葉が返ってくるだろうと予想していた。けれど補佐は静かな声で私に訊ねた。
「何を考えていたの?」
私は無言でそのまま自分の手元に目を落とした。
私の言葉を待つように、補佐がじっとこちらを見つめているのが分かる。
本当の事は言えない。適当な理由もすぐには思い浮かばない。困った私はさらに口をつぐみ、うつむいた。
「ねぇ、岡野さん」
補佐の静かな声がした。
「何を気にしているの?」
私は顔を上げずに答える。
「何も……」
そう言ってから気づく。彼の尋ね方は、私が何かを気にしていることが前提となっている。
「本当にそうかな?」
黙ったままの私に、補佐はなおも言葉を重ねる。
「時々考え込むような顔をしたり、俺から目を逸らしたりするのはどうして?」
私の胸がどきりと鈍い音を鳴らす。
「そんなことは……」
否定しようとする私を制するように、彼は続けた。
「今だってそうだよね」
そこでいったん補佐は言葉を切る。
「君が俺に対して壁みたいなものを感じていることは、理解しているんだけど。……話してみない?」
「いえ、それは……」
言えない。
「俺には言いにくいこと?」
「……」
もちろん言いにくい。
補佐は距離を詰めるように、だんだんと核心に迫ってくるように問い続ける。
答えられない私はますますうつむいた。
「ごめん!」
口調を変えて彼は謝った。
「これじゃあ、まるで尋問だよね」
「いいえ!」
私は弾かれたように、ようやくここでぱっと顔を上げた。
「私の態度が補佐を不快な気分にさせてしまったのでしたら、私の方こそ謝らなければいけませんから」
そう言って彼に頭を下げながら少しほっとした。この流れであれば、ひとまず彼からの質問攻めは終わりそうだ。息苦しくなるような緊張状態から、もう解放されると思ってもいいだろうか。
そう思いながら、補佐の表情を伺うようにちらと目を上げた。不意打ちを受けたのはその時だ。