恋愛下手の恋模様~あなたに、君に、恋する気持ちは止められない~
5.同期

電話

補佐が気遣うように私を見た。

「俺のことは気にしないでいいんだよ」

「ありがとうございます。でも急用だとは思えませんから……」

私は画面を見てそう答えながら、マナーモードに設定を変えようとした。

電話が再び鳴ったのはその時だった。

私は慌てた。まさかと思って目をやった画面には、案の定宍戸の名前が表示されていた。

「同じ人からの電話なら、出た方がいいんじゃない?俺は向こうに行っているから」

「でも……」

どうしようかと迷う私の手の中で、今度の電話は止まる気配なく鳴り続けている。

これは補佐の言う通り、早く電話に出てしまった方が良さそうだ――。

私は諦めてさっと立ち上がると、早口で補佐に告げる。

「申し訳ありません。補佐はどうぞこのままここにいらして下さい」

「あ、岡野さん!」

引き留める補佐の声には答えずに、私は急いで彼がいるベンチから離れた。水銀灯の灯りの輪の中に移動すると、画面上の電話マークをタップして耳を当てる。夜だし外だから、私は声を低くして電話に出た。

「もしもし。お待たせしました……」

補佐がいる場所まで声が届くとは思えなかったが、彼の耳を気にした私の口調は改まったものになっていた。

それを聞いたからだろう、電話の向こうで戸惑うような気配がした。

私はもう一度呼びかけた。

「もしもし?」

ようやく、ためらいがちに反応が返ってきた。

―― あ、と、ごめん。えぇと、俺だけど。今、忙しかったりした?

「出るのに少し手間取ってしまっただけ」

私はそう答えながら、ちょっとだけ不思議な気持ちになっていた。

これって、電話の相手は宍戸なのよね……。

電話を通して聞こえてくる声はいつもと微妙に違っていて、その上、耳のすぐそばで話しかけられているような感覚は近すぎて、なんとなく照れ臭いような気持ちになった。むずがゆいような違和感を振り払いたくて、私はつい憎まれ口を叩いてしまう。

「俺だけど、って言い方、一応そこは名乗るところでしょ?」

―― だって、俺からの電話だって分かって出てるんだろ?なら、別にいいじゃん。

その口調や返し方はやっぱり宍戸に違いないと納得する。

「それはまぁ、そうなんだけど……」

この同期が相手だと、どうして私までつられたように一言も二言も余計なことを言ってしまうのだろう。

自分に呆れながら私は話を戻す。補佐を待たせているのだから、早く電話を終わらせたかった。
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